その方は、已む無く三代目経営者となった方でした。創業者の下で永年勤め幹部にはなっておりましたが、次期社長は創業者の息子が務める予定でした。しかし、息子はまだ若いため、創業社長は5年前、外部から中継ぎとなる人材を連れてきて二代目社長にしました。同時に、その二代目には経営の“多角化”を期待しました。
二代目社長は、彼なりに努力しましたが、なかなか実を結びません。途中色々あったようですが、5年経ってもこれといった成果が出ないことに不満を募らせた創業者は、二代目を追い出しました。
そして三代目として白羽の矢を立てられたのが、今回の相談者だったわけです。彼はその話を打診され、当初は断っていたそうです。しかし、創業者の息子を三代目にするには時期尚早であることは社内の多くが認めるところであり、また、ほかに彼以上に適任と思われる人材も居なかったことから、已む無く引き受けざるを得なかったようです。
三代目を引き受けた直後に、大きな貸し倒れが発生しました。その契約は、二代目社長が辞めさせられる直前に受注してきた案件でした。二代目は、「5年間努力してきたが、これといった成果を挙げ得なかった。せめてもの置き土産になれば…」と語っていたそうです。
しかし、後になってわかったことは、貸し倒れ先の社長は、二代目とは旧知の人だったこと。また、その取引先は、その業界では「危ない」と噂されていた会社だったこと。これに加えて、未確認情報ながら二代目は、その取引先からバックマージンを受け取っていたらしいというのです。
これには、つい二ヶ月ほど前までその二代目と苦労をともにしてきた三代目(現社長)も裏切られた思いが強く、「なんとかならないか!」ということになったわけでした。
実はこの話は、ひと月ほど前に相談されたことがあり、弁護士を紹介してあげておりました。弁護士の判断は「訴えるには証拠が不十分」とのことだったようです。
三代目はそれで諦めようと思っていたそうですが、最近、二代目だった人が自分で会社を起こし、二代目だった当時に営業活動していた案件の受注に成功した話を伝え聞いて、怒りを覚えたようでした。
三代目が面白くないのは、わかります。なんとか二代目だった人から、何らかの“損害賠償”でも受けられないかと考えるのも理解できるのですが、客観的にみて、仮に訴えを起こしたとしても得るものはほとんどないのではないかと思われました。
ここに書いたこと以外にも、さまざまな出来事が二代目だった人との間にはあるようですが、結局それは三代目の心情的な問題として理解はできるものの、これ以上踏み込んでも時間と労力と場合によっては費用が嵩むだけのような気がしました。私は、そのエネルギーを、自社の建て直しと、今後の成長のために費やすべきだとアドバイスして別れました。これは、三代目に天が与えた“試練”だったのかもしれません。