「ご無沙汰しておりました」と現れたのは、すっかり忘れかけていた人でした。聞けば、開業して4年になると言います。
開業当初、熱心に相談に来られ、非常にこつこつと努力する方であるとの印象を持っていたのを思い出しました。結局開業2年目まで、折りに触れ窓口を利用されていましたが、国民生活金融公庫より少額の借入をしたあと、来られなくなった方でした。
顔の表情からは、あまり余裕が感じられません。「今日はどんな相談だろう?」と、待ち構えていると、次のようなお話でした。
「お陰様で、なんとかやっております。以前にお世話になって借りたお金も全部返し終えました。ありがとうございました。」「今日は、決算書を持ってきました。実は、たいした売上があるわけでもないのですが、税金をとられました。このままの経営で良いのか、確認したいのです」というのです。
この方は、美装関係の仕事を個人事業として営んでおられます。決算書を拝見すると、消費税の課税業者になるには至らない売上規模でした。ただ、粗利益率がかなり高く、なんとかご家族で生活するにはそこそこの状況にありました。
ご本人は、「自分の知り合いで、もっと大きな売上を挙げている人がいるが、いつも“税金を払うほどじぁない”と言っているのが不思議だ」というのです。要するに、“節税できる方法があるのではないか?”と確認に来られたわけです。
決算書を拝見して、在庫が不自然だったため質したところ、「昨年までたいした在庫もなかったので、ゼロの扱いをしていた。しかし今回は、決算直前にまとめて資材を仕入れる必要があり、ちょっと金額も大きかったため、帳簿に載せることにした」というのです。
そのまま確定申告をしたところ、どうしても税金がかかってしまい「失敗した」と思われたのかもしれません。それにしても、ヘんな細工をしようともしなかったところに、この方のお人柄が現れておりますね。
「税理士さんをお願いする余裕もないので、自分で申告していた」とのことですが、本来認められている会計処理の仕方をいくつかアドバイスしてあげました。
開業当初から、「この方はしっかりやっていくに違いない」と感じていましたが、答えは出たようです。
窓口に来られなくなって3年。“石の上にも三年”という諺がありますが、まさにこつこつと努力を続けられ、ちょっと会計処理を失敗(?)したものの、税金を払う状況になられていたことが、私にとってはうれしい報告でした。