これまで、新規創業に関したお話は時折書いてきましたが、当然ながら、中には逆のケースもあります。
3年ほど前のことですが、一人の中年女性が相談に来られました。ご主人がラーメン店を営んでいるのだそうです。
そのラーメン店は、化学調味料を使わず、煮干でダシをとっており、麺も自前の麺を提供しているとのこと。また、具に使う野菜なども有機栽培のものを使用し、安心・安全に拘った店として開店されたようです。
しかし残念ながら、思ったほどお客さんが入らず、毎月毎月赤字続きでどうしたものか?という相談でした。
あるコンサルタントの人に相談したら、「もっと思い切ってPRしないとダメ」と言われ、店の看板を大きな目立つものにしたり、チラシを積極的に配るなどしてみたが、やはり思わしくないとのことでした。私は、毎月の収支を具体的に確認させていただきました。また、立地についても、できるだけ詳しく聞かせてもらいました。
しかし、どう考えても採算がとれる見込みが立たないのです。相談に来られたご夫人は、「今、パートに出ているが、パートを辞めて店を手伝うようにし、出前に力を入れようか」とも考えたとのこと。しかし、私の計算では、今のままパートを続けていたほうが収入は多いように思われました。
いくら客が来ないと言っても、お昼時の1時間ほどは席がいっぱいになります。そのため、片付けや食器洗いなどに、昼間の2〜3時間はパートさんを使っているとのことでした。そのパートさんには、「辞めてもらうかもしれない」と仄めかせており、その決断をして本人に告げるべき期日も迫っておりました。
いろいろ考えたあげく私は、店を閉めることを勧めました。こうした提案はなかなかし辛いものなのですが、色々と聞き出した中から、わずかな望みが見出せたからです。
それは、ご主人が第二種運転免許を持っていると聞いたからです。そして、実際に短い期間ではあったが、タクシードライバーをしていた時期もあったとのお話が決め手になりました。
これで「メデタシメデタシ」とは、とても言えないことはわかっています。しかし、今のままでは出血(赤字)のし通しであることは明らかです。ご主人が好きで始めたラーメン屋さんだったことは事実でしょうが、いつまでもこのまま続けられるはずはありません。
かと言って、どこかのラーメン店か飲食店等に雇ってもらえるかとなると、年齢的にも、まず難しいと思われます。しかし、タクシーならば、とりあえず就職先は見つかりそうです。店を畳むことで、とりあえず出血は止まります。
タクシードライバーも決して楽でないことはわかりますが、少ないながらも固定給部分があり、幸いにもご主人は経験者でした。奥さんもパートを続け、二人で働けば、少なくともこのままラーメン店で赤字を続けるよりはマシでしょう。
相談に来られたご夫人は、「主人を説得してみます…」と言って帰られました。その後の話は聞いておりませんが、きっとどこかで頑張っておられることと思います。